ドリアン
80歳になる義母と近所のスーパーに出掛けたときのこと、「ドリアン」がワゴンセールで売られていた。緑色で直径25センチメートルほどの大きなクルミのような形で山積みになっている。
義母は立ち止まり、「一度このドリアンを食べてみたかった」と憧れのまなさしで見詰めていた。ドリアンは私もまだ食べた経験が無く、少々躊躇したが買ってきた。義母は亡くなった夫から『戦時中に南方の島で食べた果物の王様ドリアンが大変おいしかったと聞かされていて、一度食べてみたかったのだそうだ。熟れるまでしばらく車庫の陽の当たらないところに置いて待つことにした。
私も義母もすっかり忘れたころ、ある日突然、家中が悪臭に包まれた。何かが腐っている。なんだろう、ガス漏れか?台所は大丈夫だった。近所で何かあったのか?そうでもない。外は臭くもないようだ。
高床式の一階の車庫の辺りが怪しい。とうとう主人や子供たちまでも耐えられず動き出した。悪臭の元に行ってみると、あの時のドリアンが黄色く色づいてパックリと開いていたのだった口中からバニラアイスのような色合いの塊が見える。義母はもうスプーンを手に持っていた。
この悪臭をかいでも、食べたい欲求の方が強いようだ。一口スプーンですくって食べてみた。「うんめ−!」「おめさんも、食べてみなさい」
その言葉に私も勇気を出して口に運んでみた。おいしかった。本当にトロッと甘くてまったりとした、たとえられないくらいの美味だった。娘は決して食べようとはしなかった。その後ひとしきり亡き夫の思い出話をしてくれた。
もうすぐお盆。亡くなった方の思い出話が一番の供養になると聞く。義父のことを思い出し感謝の気持ちが込み上げてきた。合掌。
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